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ミミババの部屋

聖都市壊滅幻想

三條三輪戯曲集2

環境破壊に注目した意欲作‼
1992年11月初演

おとぎ噺劇画
 聖都市壊滅幻想
             作・演出 三條三輪

近未来のある日、 新宿が、 東京が滅亡する⁈

   20××年、ハイテク、バイオ、
   金、金、金の日本。新宿は巨大
   企業サクラグループに支配されていました。
   会長桜林太郎が君臨する
   サクラセンタービルの
   きらめく電飾の下、
   廃棄物や酸性雨で木も草も
   つつじも枯れ果てた
   中央公園には、
   闇の中にうごめく
   泥棒グループが……


     地球のうめきが聞こえます。
     地球が怒ります。
     赤い、赤い、赤い終わりの時が……

   揺れ崩れる大地の底で
   殺しあう宿命の母と子は……



       遠い二十世紀末の中央公園。

       新緑の木々、満開のつつじ。ラケットをもったカップル。
       他、何組かのカッ プル。

       若いアザレアと若い男(林太郎の父)
アザレア  きれい、アザレア!
男  アザレアは日本語でつつじ、つつじだよ。中央公園のつつじはこの辺じゃ一番だもんね。……座ろうか。僕、心臓が一寸ね、息切れし易いんだ。(二人ベンチに座る)
アザレア  大丈夫?
男  ああ。ほんと、満開だ。精一ぱい咲いてる。君みたいだ。
アザレア  Tu Tu Ji?
男  ツ。ツ、ツ、ジ。Tsu。
アザレア  Tu Su Ji. あん、だめね あたし。
男  つつじくらい言えなくたってどうってことないよ。普通に話していれば、日本人と変らないもの。
アザレア  あたし半分日本人よ、死んだママが言ってた。お父さん探しに留学生の資格とって日本に来たんだもの。
男  何よんでるの?
アザレア  ア、だめ、
男  「ハイテク情報、ヴァイオの現状」……こんなむづかしい本、どうして……
アザレア  あなたのパパの会社、ヴァイオに力入れるって書いてあったから、ウウン、結婚したいなんて思っていないわ。あなたは桜グループの社長さんの一人息子。半分日本人の、東南アジアの貧乏な女。パパがOKする筈ないね。あなたのフィアンセのことも知ってる。ハイソサエティ。
男  親父の決定で、僕の義務なんだ。──あっちは氷で、君はアザレアだよ。
アザレア  奥さん、愛さなくてはだめ。でも、私にもこのベイビーだけはうませてね。ね。
男  勿論だよ。僕、責任もって育てるよ。
アザレア  嬉しい!
男  うん!(胸を抑える)
                              溶暗
       雨の音、赤ん坊の泣き声。

      同じベンチ。
      一寸やつれたアザレアがベビーカーをおいて歌っている。
アザレア  眠れ安らかにいとしのわがこ。緑こき木陰にゆりかごゆらら。風よ吹くなら、静かに吹け、小鳥ようたうなら、静かにうたえ。緑こき木陰にゆりかごゆらら──(子供の泣声)林太郎、林太郎。お目めさめたのね。ほーら、あなたの大好きな公園よ。あなたは緑が大好きだもの、きれいでしょう。──でも、又、あのヒマラヤ杉が枯れかけてる──つつじも今年は半分しか咲かなかったのよ。皆が言ってるみたいにあの人のパパの会社せいなのかしら。──林太郎君、ママ辛くて辛くてたまらない。あの人は心臓移植の拒否反応で死んだの。でもお葬式にも入れてもらえない。顔一目見せてもらえない──どうして生きていいかわからない──ごめんね。あなたがいるもの。ママ、ホステスでも泥棒でも何でもして生きて行くよ……
      窓、三人の男達、二人をかこむ。
入管の先輩  通称アザレアさん? この方が桜グループの若社長のお子さんですね。
アザレア  何ですか。どなたですか?
先輩  会長様ですよ、会長。(会長うなずいてみせる)
会長  (ステッキでアザレアのあごを上げる)おまえか。息子を誘惑したのは。フン。東南アジアのくせに、男の子をうんだのはお手柄だった。残念ながら、嫁の生んだ子はひ弱でな。跡つぎにならん。この子を後継者に育てる。
先輩  これは桜グループの決定なのですよ。
入管の後輩  大丈夫あなたには十二分のことをしてあげます。ほら、二百万、二百万ですよ。
      会長、林太郎を抱こうとする
アザレア  止めなさい! 売らない! あたしの子よ!
先輩  困りますな。そうわからなくては。
会長後にいて二人にめくばせ。二人の男アザレアを押える、林太郎をうばい、看護士に渡す。
会長  あの子は嫁の子として入籍させる。お前は、このまま日本から退去してもらう。将来うちの跡つぎがどこの馬の骨かわからん東南アジアの女が生んだ子だとわかっては困るのだ。さっさとくにへ帰って、親に家でも買ってやるんだな。これだけの金があればお前の国では大いばりだろう。
アザレア  くに? ここがくにです!
会長  フン(二人の男に)いいな。(アザレアに)これは入国管理事務所の連中だ。私としては息子が可愛がった女を警察に渡したくはなかったのでな。
後輩  あんたを消すか、一生拘置所に入れろという声もあったのですよ。それを会長がかばって国外退去にして下さったのです。お情けを無にしてはいけませんよ。
会長  あとは、たのむ。明日、会社に来なさい。
二人  ハッ。
      男と会長は去る。
アザレア  (金を投げつけながら)オニ! デーモン!
入管の先輩  勿体ないことする。あきらめるんだな。あんたのビザはとっくに期限切れだ。つまりオーヴァーステイなのだからね。法律で定められているんだから仕方ない。お前がヨーロッパかアメリカならもう少しどうにかなっただろうが。東南アジアじゃ──
アザレア  待って。息が苦しい。吐きたい。吐かせて下さい。
入管の後輩  いいでしょう。気持ちわかりますよ。
先輩  早くするんだぞ。
      アザレア茂みの陰にとびこみ、逃げる。
先輩  おい、おい! 出てこい! 畜生!
      二人探す
後輩  まずいですよ。僕たちが逃がしたことがわかりますよ。先輩だって責任とわれますよ。あの会長、僕らのクビなんか簡単に──
先輩  まいったな。もう一度、しらみつぶしに探そう──
後輩  先輩、このまま帰ってあの女を送還したって書類作りましょうよ。としの近い女をみつけて名を名乗らせて、金つかませりゃ大丈夫ですよ。だって馬鹿正直に報告したってまずいだけですよ。書類さえ作っておけばわかりっこないですよ。
先輩  そうするか──よし。
      二人さる
      アザレアでる
アザレア  強制送還なんかされるもんか、へばりついてもこの国にいてやる。私の子供を見守ってやる。悪魔の日本人! お金しか持ってないじゃないか! こんな公園のつつじの木も枯れれてしまえ! 枯れてしまえ! 
     (声──かげのエコーのように)枯れて、枯れて、枯れて、枯れてしまえ──
中央公園。夜。ベンチ。
枯れて棒のように突っ立つ木々。
奥にはカニみたいな二本角のビルと、巨大な桜グループセンタービルの灯がきらめいているがこここは暗い。ガラスのわれた街灯が一つ。
かすかな口笛。突然四方のやみから湧き出たように数人の若者が足音もなくかけよってくる。

三條三輪戯曲集

三條三輪戯曲集① 
  夢と遊びのエスプリで 時代を鋭く見つめる 三條三輪 待望の戯曲集!
「万の宮精神病院始末記」
「アララビアンナイト」
「動話劇 青白い鳥」



三條三輪戯曲集②

  眠らない街 新宿を舞台にした代表作
  夢なき時代の闇に 愛の修羅 三條三輪待望の第二戯曲集!
    「牡丹燈幻想」
   「聖都市壊滅幻想」 自然破壊、環境問題
   自伝的エッセイ
  「女優と医師の二足のワラジ」

三條三輪戯曲集②聖都市壊滅幻想   あとがきより
  人間の極限状態を求めるあまり、戦争や政治の崩壊などを多くとり入れたためか、とかく社会派などと取られがち。一つそのレッテルをはがして昔から大好きだったラヴロマンスを━━と書いたのが「牡丹燈幻想」でした。勿論日本での定番、大円朝師の「牡丹燈篭」に対抗する勇気などはじめからありません。只私なりに、原本の中国伝奇小説「剪燈新話」の「牡丹燈記」に還って、楽しい大陸の人々や、絢爛の古代中国を夢見ながら書きました。ミュージカルにする気は全然無かったのに、クライマックスのセリフが気がつくと歌になっているというフンイキで、たのしく筆をすすめられたように記憶しています。幸い、俳優さんにも恵まれ、お客様にも御好評をいただいて、私自身も好きな一編になりました。
  「聖都市壊滅幻想」は、学生時代から今の稽古場まで、お世話になって来た新宿をモチーフにした「新宿三部作」の第三部としてのものです。第一部「假題東京都四谷階段」(東海道四谷怪談の現代的翻案、上昇志向サラリーマンの破滅)、第二部「歌舞伎町幻想」(バブル地上げの大ボス、したたかなクラブママ、フィリピン娘の悲劇など歓楽の街にうごめく人々━━)と、四谷お岩稲荷から歌舞伎町を通り、大ガードをくぐって西口に出たわけです。
  当時「知事の大理石風呂」と物議をかもした豪華新都庁舎の出来立てで、取材にと上った展望台、当初の臨海副都心計画の大企業ビルが林立するイメージを浮かべながら東京湾をのぞんでいたら、突然そのビルが沈んで行く姿がありありと見えたのがこの芝居の想のはじめでした。そこで私としては、二十一世紀の後半に時代を設定して未来への不安をこめたつもりでしたが、いくら芝居でもちょっと荒唐無稽すぎると内心赤面していたのでした。それが、主役の大企業が使う当時最先端ハイテクの「ケイタイ」が、今や小ギャルのポケット小物。埋立地の液状化、ダイオキシン汚染、遺伝子の組み換え、内臓移植等々が、二十一世紀を待たずにアッという間に現実化して常識になってしまう━━人間て、日本人て何なのだろうと空恐ろしい世紀末です。
                                            一九九九年初冬


三條三輪戯曲集③
  今や老いた下隅女優が次々と見る夢は――
決して演じることのできなかった名作の 主役の舞台――
狂気と真実の狭間できらめく生と死、 女優の業、女の業を、鋭く描く!
三條三輪最新戯曲集 「女優」その1(窓には白い櫻が映えて)
「女優」その2(窓には青い月がのぞいて)
「女優」その3(窓の外は雨)
 フィガロの結婚より  「桃花村祝婚歌」
「黒雪姫と七人の大人(おおびと)たち」(自動劇)

「戯曲集③あとがき」より
(本当にありがとうございます。)  二度あることは三度、と申しますが、又又、カモミール社社長の中川さんのおはからいで、戯曲集のⅢを出すことになりました。座つきのお芝居書きとして、どうにかしてお客さまによろこんでもらえれば、あの役者、この役者を生かせれば、とヒイヒイとつづってまいりましたばかり、只もうおこがましく、でも内心嬉しく、でも恥かしく――  「女優」は今までの劇団上演用とは一寸違う経緯でして、一九九九年、テアトロ誌企画の「ファンタスティック劇場」の中の一人として、同年九月から三ヶ月連載されたものです。条件としては、少ない登場人物で、一人の女優が演ずる三話のオムニバス、ということで、迷っていましたが、中川さんの、「売れない女優が見る夢なんかどうですか」というヒントで、どうも私のことみたいじゃあないか、と冷汗をぬぐいながら、女優の業みたいなものが書けるかも、とはじめました。  一話は女優の哀れを、二話は毒を、三話は昇華をと――勿論その時点では、どこかの美しい女優さんが演じてくれると信じて――。ところがたまたま、図々しくも自分で演ずる羽目になってしまい、昇華なんて到底ムリ、執念の固まりみたいな私です、と、三話だけ、一部改訂させていただきました。  「桃花村祝婚歌」と「黒雪姫」の二本は、それぞれ春とクリスマスのパーティー用にとにぎやかにのん気に書き下ろしたものです。「桃花村」は大好きな「フィガロの結婚」を拝借して中国に移し、大好きな「西遊記」を合併させて(勿論史実や考証は思案のほか)、日本人の夢の中国でたのしく遊んじゃいましょうというノリで、うちでは最高の上演回数を重ねて来ました。  「黒雪姫」は、これまた大好きな映画「ポケット一ぱいの幸福」から――(世界中の人々が、例えばジャッキー・チェンなどもこの作品を下じきにして映画を作っています。)丁度、山口組(マウンテンマウス)と一和会(ワンピース)の抗争が世を騒がせた頃で、一生けんめいソフトをあみだにかぶってアロンを演じた若き日の跡見梵が、「可愛いわァ」と小母様族に大モテで、真っ赤っかになって握手されていたのもたのしい思い出です。  終わりに又又又、尽きせぬ御礼を――。私は理論オンチで、明確なコンストラクションを立てて書き出すのは苦手、ある一言のセリフから想がひろがるという有様で、人物達が勝手にしゃべりはじめ、自分でも結末があやしくなりそうなひとなのですが、そういうことを大きく受け止めながら、最高の示唆とはげましで必らず到達点に導いてくれるそのままボサツ・フゲンの中川さん、そして心細い私をさりげなく暖かく支えて下さる編集部の浅井さん、野路さん、津野さん、又、毎回戯曲の不備を光で埋めて、時にグサリと一言刺して下さる照明家の鈴木さん、永年凄いアシスタントに徹し、主演しながら舞台を支えてくれる千手観音と阿修羅の申し子跡見君、足りない戯曲を黙って演技で補なってくれる森奈クン、石井サン、たち仲間のみーんな、仕様もない姉貴を物心ともに一生支えてしまいそうな超不運な畏妹伽耶クン、そしてそしてそして、わざわざ劇場にいらして、暖かくもきびしくも観、守って下さるお客様方――皆さまにありがとうございますの想いは尽きるものではございません。



三條三輪戯曲集④
一人の舞台俳優(跡見梵)の  脳腫瘍闘病の軌跡 ①    序章(プロローグ)  今年、二〇〇九年の、十二月公演が、劇友やお客様のすすめで、二十年前に書いて演出した「化石童話」に決まった。 話は、ある商社が、水源涵養地帯の上、鳥獣保護区でもある森林を買収、宅地に造成して売り出すことを計画、特別許可を取るため、闇のフィクサーを通じて金と女で知事を籠絡する。が一人の老地主が買収に応じようとしない。彼は特攻隊生き残りの隊長で、その土地の丘の上に立つ桜の古木は、六十年前死地に送り出した隊員達が名を刻んだ、彼にとっては守らなければならない大切な部下の墓標だった。そして──というもので、当時或る地方都市であった実話からの着想と、又当時出版された特攻隊員の手記、死を強制された若者達の叫びにワァワァと飛ばした涙がドッキングして、カッカと怒りながらペンを進めた記憶がある。といっても私のことだから、シリアスなものになり得なくて、メロドラマンガチックになってしまった様だが──。 とにかく古いもので、今に通じるか、と心配したのだが、流行語や風俗を二、三、修正しただけで、そのまま現在にはまってしまった。二十年たっても、この国の本質は変わっていないのか、と改めて感心した。今度の政変でこの体質が少しでも改善されればと思うのだが──。 思うと云えばもう一つ。この芝居は私達の劇団にとって、主役を演じていた跡見梵が舞台上で倒れるという因縁の芝居なのだ。今、元気に再び主役の稽古をしていう彼を演出していると、あの悪夢の日がタイムスリップして網膜に写し出される。 公演の初日、一九八九年十一月十日、別に関係ナイのだが、ベルリンの壁の崩壊した日だった。二幕に入った時、楽屋で衣裳替えしていた私の所に数人の劇団員がかけこんできた。「川島(主役の役名)が変です!」とんで行ってのぞくと、彼のセリフが違う、ドイツ語らしいものを喋っている。と思ったらセリフが出なくなった。体は固まっている。そしてとうとうクライマックスの別れの宴の場で倒れたのだった。


三條三輪戯曲集はテアトロ、カモミール社の書籍です。お問い合わせはカモミール社℡03-3294-7791 戯曲集①②は虹企画に問い合わせください。℡03-3366-1043

三條三輪戯曲集①
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